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トランスワード代表仲谷による『翻訳語録』を以下にしました。
プロ翻訳者を目指す皆さんの、何かのヒントになるかもしれません。


目 次


1. 技術翻訳の目的は技術の内容を正確にわかり易く伝えることです。

翻訳講座の受講生や当社のトライアルを受ける人のほとんどが 「自分が主役」の翻訳をしています。
「なるべく良い文章を作ろう」、「この場合はこの構文が使える」といった気持ちで、
いわゆる学校での英語の勉強の延長線で翻訳をしているのです。
この気持ちが強すぎると確かに美しい文章ができるでしょうが、 原稿の内容やニュアンスが正確に表現できない傾向があります。仕事としての翻訳では致命的です。
翻訳では原稿の細かいニュアンスも含めた内容を正確に表現することが最も大切です。 主役は翻訳者ではなく原稿です。これをしっかり理解して実践できるようになれば一人前の翻訳者です。



2. 上手い翻訳者の訳文チェックはとても有益です。その翻訳者のノウハウが盗めます。

翻訳会社にとって優秀な翻訳者はビジネスの糧です。レベルの高い人をなるべく多く集めたいものです。
翻訳業は今でも職人の世界であり、「翻訳技術は自分で会得するか、先輩から盗むもの」といった考え方が主流です。 確かに私もこのような考え方で勉強してきました。
しかしビジネスとして翻訳をするにはこれではまにあいません。 最短の時間で高い翻訳レベルに達してもらわなくては商売になりません。 このため当社では社員も対象にした翻訳教室を運営してきましたが、これでも不十分です。 教室で教えることが出来るのは基本ルールとわずかな実践技術だけだからです。 「後は自分で努力しなさい」というのは簡単ですが技術分野の翻訳は必要となる知識の幅が広く、 この方法では一人前になるために5〜10年くらいの時間がかかってしまいます。
短期間(1〜2年)で翻訳者を育てるには緻密なOJTしかありません。 ある翻訳が完璧に仕上がるまで細かな指導をして「完璧な翻訳をするためのテクニックと技術知識」を丁寧に教えるのです。 1度ではまず覚えられないので何度も何度も繰り返し指導します。
翻訳は勉強ではなく練習が大切です。頭で理解しているだけでは実践的な翻訳はできません。毎日の練習が大切です。



3. 翻訳の目的は原稿の内容を他の言語で分かりやすく伝えることです。
翻訳者の能力をひけらかすものではありません。
常にお客様のことを考え、お客様のためになる翻訳をしましょう。


翻訳を語学の延長だと考えるとうまい翻訳はできません。
文章の形や用語だけが気になり、肝心な「内容が正確、かつ分かり易く読者に伝わるか」 という本来の目的が疎かになります。
語学の勉強中はいかに美しく、上手な文章を作るかという事に力を注ぎます。 この考えを翻訳に適用すると原稿の内容や微妙なニュアンスが疎かになりがちです。
正確で分かりやすい文章を書く力は、口頭でのコミュニケーション能力と共通しています。 常に読者を意識し、相手に分かり易く表現する配慮が大切です。
多くの本を読み、人前で話す練習をするとコミュニケーション能力が高まります。
その力がつくと翻訳もうまくなります。



4. 原稿を読むことと平行して訳文を考え、それと同じスピードでタイプを打つ手が
動くようになるまで翻訳のトレーニングを積みましょう。


翻訳をするにはパソコン(ソフトを含む)、辞書、FAX、電話が必須です。
もちろん、e-mail、インターネットは自由に使いこなせなくてはなりません。
翻訳会社といつでも連絡をとれるようにしておき、依頼に迅速に対応できるアイテムを揃えておく必要があります。
そのアイテムの中でも辞書は翻訳者にとって特に重要なものですが、最近は電子辞書が主流になってきました。
当社でも複数の電子辞書を検索できる辞書検索ソフト(Jamming等)を利用しています。 翻訳を勉強中の人はこれらの道具をきちんとそろえることを軽視しがちです。
「自分の実力はまだまだなので、実際に仕事ができるようになってからそろえよう…」とか、 中にはパソコンさえ使わない人もいます。上に挙げた道具はお金さえ出せば手に入るものばかりですが、 使いこなせるようになるにはかなりの時間と労力が必要です。ひょっとすると翻訳そのものの勉強より大変かもしれません。
仕事の種類を問わず、あらゆる局面に対応できる道具を揃えることも重要な要素になります。 翻訳の勉強を始めたその日から、こういった道具を揃えて武装を始めることも忘れないようにしましょう。



5. 学校英語が得意な人は翻訳者として苦労します。求められるものが違うからです。

翻訳会社のトライアルには一般的な語学力だけで良い翻訳ができるようなものはありません。 語学力(文章作成力)に加えてその分野の専門知識、そして仕事としての翻訳業界の常識やルールなどが試されます。
技術知識がないと必ず引っかかる落とし穴があります。生半可な知識でうわべの、 つまり文字面だけの翻訳では絶対に合格しません。
技術翻訳のトライアルを翻訳するときは原稿の内容をきっちり理解した上で翻訳を開始しましょう。
技術翻訳には電気を含む物理の基本知識と概念の修得が不可欠です。 語学を勉強してきた文科系出身の人にとっては高いハードルのように思えるかもしれませんが、 実際はそれほど高度な知識ではなく、入門レベルの知識で十分です。



6. 翻訳ツールや自動翻訳システムが進化すると、翻訳の仕事がなくなるのではと心配する人がいます。 もしあなたが二流の翻訳者なら大いに心配しましょう。

最近は翻訳支援ツールや翻訳ソフトがもてはやされています。
この種のツールはうまく使うと翻訳の効率化に役立ち、特に翻訳支援ツールをうまく活用することのできる マニュアル類の仕事に効果が出てきています。 しかし翻訳者は決してハッピーになっていません。収入は減少する傾向にあります。 大量生産できるものは価値が低くなってしまうからです。
逆に「ツールの利用だけでは不可能なもの」、「その人だけしかできない特殊なもの」は 価値が高くなる傾向があります。
パソコンや各種お役立ちソフトをうまく使うことは確かに重要ですが、 翻訳者としてのベースの力を伸ばす努力をしない人はいつのまにか稼げなくなってしまいます。
「あなたの翻訳技術とノウハウを翻訳ソフトに組み込みたい。」と言われるほどの力をつけたいものです。



7. 「何でも出来ます」は何にも出来ないことです。得意な分野を確立しましょう。

翻訳をするためには語学力、専門知識、翻訳知識が必要です。
語学力は独学でも習得できます。専門知識は実務を通じて得るのが最も効率的ですが、 自分で専門書などを読んで身につけることもできます。
しかし翻訳知識については残念ながらこれといった教科書がありません。 部分的には専門雑誌などで紹介されていますが、どれも十分ではありません。
翻訳知識とは一口に言って、「翻訳をする上での微細な約束事および体裁」のことです。 いくら立派な文章で、かつ内容の技術レベルが高くても約束事や体裁の守られていない翻訳文章は商品になりません。 この約束事や体裁は分野によって異なるし、クライアントによって変わることがあります。
また翻訳会社ごとに決めてあることもあります。しかしベースになる共通部分は変わりません。 技術翻訳の場合、新人がデビューするのが難しい理由は翻訳知識が乏しいことにあります。 トランスワードは常時翻訳者を募集していますが、トライアル翻訳の合格者は多くありません。 不合格の理由で一番多いのが「翻訳知識不足」です。数少ない合格者に共通しているのは 「しかるべき翻訳学校で翻訳ルールをきっちり勉強している」ことです。
商品になる翻訳はそれなりの勉強をした人でなくてはできません。 あらゆる機会をとらえて翻訳の知識を身につけてください。



8. 翻訳上達への早道は反復学習です。特定分野の翻訳を複数こなせば知識も増し 翻訳のスピードも上がります。

翻訳がうまい人に共通するのは自由に使えるフレーズを多く持っていることです。
使えるフレーズが多くあると原文が表現しようとする内容にぴったり合った翻訳表現が可能です。 反対に少ないと数少ない使える表現を無理やり使うのでギクシャクして意味が微妙に違う訳文が出来上がります。
手持ちのフレーズを増やす方法はいろいろありますが、特に有効なのが自分のデータベースを作ることです。 読書や翻訳をしている途中でこれはと思う表現が出てきたらそのつどデータベースに登録しておきます。 そして何度も見直し・利用していくうちに自由に使えるフレーズになっていきます。
「技術英語の表現集」のような本を買って読むのも一案ですが、やはり自分でこつこつ作り上げたものの方が頭に残り、役に立ちます。



9. 翻訳は勉強しても上手くなりません。スポーツのように大量の練習が必要です。

英検1級にあと1歩なのになかなか合格しない。
TOEIC800点まではどうにかきたがそれ以上伸びない。どうしたらいいのでしょうか? 勉強の方法を変えたほうがいいでしょうか?といった質問をよく受けます。
このような状態を「学習の高原」と呼びます。努力は続けているのだが進歩が見られない状態です。 多くの人はここであきらめてしまいます。
学習の高原とは新しく学ぶ情報量が忘れていく情報量とバランスがとれている状態です。 勉強をやめてしまえば忘れる量の方が多くなるので後退してしまいます。苦しい状況です。
学習の高原を突破するにはこれまで以上の勉強をする必要があります。
英語の場合英検1級またはTOEIC950点くらいまではがむしゃらに勉強する必要があります。 一旦このレベルに達すると英語が自然に使えるようになり、勉強を意識しなくても毎日の生活に取り入れることができますので、 よほど油断をしない限り後退しません。
学習の高原にいる人はあと1歩で頂上につきますのであきらめずに頑張りましょう。



10. 読書嫌いな小説家はいません。しかし本を読まない翻訳者志望の人は多過ぎます。 文章の上手さ、翻訳の上手さは原則としてその人の過去の読書量に比例します。

私が良いと思っている勉強方法は大量の文書を読むことです。 多くの文章サンプルに接すると自然に言葉の使い方が洗練されてきて、意識しなくても上手な文章を作ることができます。
翻訳教室では翻訳に必要な最低限のルールやテクニック、そして専門知識は教えますが、 言語そのもののセンスは短期間で教えられるものではありません。
ハイレベルの翻訳者になるには大量の読書が不可欠です。



11. Junk-in、Junk-outとは原稿の質が悪いと良い翻訳は期待薄ということを意味します。 しかし本当に腕の良い翻訳者はJunk-in、Perfect-outを実行します。

"This is a pen."のように簡単で理路整然としている文章は機械でも翻訳できます。
しかしクライアントから送られてくる原稿はこのように簡単なものはまずありません。
機械には翻訳できない種類の原稿がほとんどです。
本来翻訳とは原文の奥に潜んでいる情報(内容)をきっちりと理解し、 不明な点があれば確認しながらドキュメントを作り上げていく作業です。
機械にはそのような配慮の行き届いた翻訳をすることはまだ暫くはできないでしょう。 まだまだ機械にのっとられる業界ではありません。
これからの翻訳業界で翻訳者が生き残り活躍していくには配慮の行き届いたハイレベルな翻訳ができるかどうかにかかっています。
ハイレベルな翻訳者になるために必要な能力はまず完璧な語学力です。これは書くだけではなく読み込む能力が重要です。
それから翻訳する分野を理解するためのある程度の専門知識、これは一般知識といっても良いと思います。
さらに原稿を書いた人は本当はこういうことを表現したいのだろうけど 書く力がなくて表現できないのだろうな、ということを考えてあげる配慮が必要です。
自分勝手ではない気配りの気持ちが翻訳者には求められます。



12. 翻訳はパソコンとインターネットを使えば場所を選ばずできる仕事です。

会社に頼らない生き方を模索する人たちの間で翻訳が脚光を浴びています。
翻訳は時間と場所を選ばないので自由な生き方をしながら収入を得たい人にとっては有利な(便利な)仕事です。 現在私は翻訳会社を経営していますが、将来引退した後は世界中を生活しながら廻り、 旅費と生活費は翻訳で稼ぎたいと思っています。
しかし誰でもが翻訳で稼げるわけではありません。語学力と専門知識、そして翻訳技術が必要です。 営業力も欠かせません。プロになるには時間と努力が必要です。
以下にプロ翻訳者になるための条件をあげます。参考にしてください。
 1. 高い語学力(外国語と日本語)を持つ。
 2. 翻訳対象の専門知識を持つ。
 3. 翻訳するための文章スタイル、表記方法、ルールをマスターする。
 4. 仕事を獲得する方法を知る。
翻訳には向き不向きはありません。誰でも努力に比例してレベルが上がります。 将来の楽しい生活のための準備を今のうちに始めましょう。


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